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自森人-自由の森学園の人-の読書ブログ
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★★★

著者:  歌野晶午
出版社: 文藝春秋

  主人公は、成瀬将虎。彼は常日頃から肉体を鍛えつつ、女の子と遊んでいました。そんなある日、後輩のキヨシからお嬢様・愛子の心を掴むために助力してくれないか、と相談を受けます。ちょうど運悪く、愛子の父が、轢き逃げ事件に遭って死去。保険金詐欺事件に関係したために殺されたのではないか、と推測する愛子は、成瀬将虎に事件の謎を解いて欲しい、と依頼してきます。

  同じ頃、成瀬将虎は地下鉄で飛び降り自殺を図った麻宮さくらという女性を助けます。2人はだんだんと仲良くなっていくのですが・・・ その2つの出来事が錯綜しながらも絡み合っていきます。そして、物語が最後の辺りに突入していくと、トンデモないことが分かります。

  タイトルからして、トリッキー。

  まさかそういう話だとは・・・ 意外性は抜群。ため息をつきたくなります。びっくりでした。歌野晶午という人は騙りの名手だと感嘆しました。小説だからこそ成立する叙述トリックが仕掛けられています。素晴らしい出来です。

  「その物」が何であるのかを誤認させられるのが小説の特徴です。「それ」は物なのか、動物なのか、人間なのか。人間だとしたら男なのか女なのか、何歳なのか、何者なのか。小説だとそれらを全て隠したまま物語を進行できます(テレビや映画では、そうはいかないと思う)。

  その小説という表現方法の特徴が、とてもうまく活かされています。これに★5つあげないわけにはいかないのではないか。でもどうだろうか・・・ いろんな意味であざとすぎる気もします。

  第4回本格ミステリ大賞受賞。『このミステリーがすごい!』2004年版第1位。本格ミステリベスト10/2004年版第1位。


自森人読書 葉桜の季節に君を想うということ
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★★★

著者:  東野圭吾
出版社: 講談社

  ミステリをからかった、自虐的/パロディ的な連作短編ミステリ小説集。名探偵・天下一大五郎と、警部の大河原番三が活躍。2人は、ありがちで陳腐なストーリーと、ミステリ小説にはいつも存在する「暗黙の了解」の数々と、自分に割り振られた役割に呆れ、そしてうんざりしながらも次から次へと事件を解決していきますが・・・

  『名探偵の掟』の中で、東野圭吾はそこらへんに転がるありきたりで安直で型にはまりきったミステリを痛烈に風刺します。そういうものがミステリ小説をだめにしていく、と彼は慮っているのだと思います。この本はかなり笑えます。しかし笑えるだけでなくて考えさせられもします。

  パターン化して、袋小路に陥る本格ミステリというものをどうするのか、と東野圭吾は問うています。彼がミステリと真摯に向き合っているということがよく分かります。

  これが、1996年に刊行されたのは象徴的。1996年にはメフィスト賞が誕生し、そこから「薄っぺらい」「どれ読んでも同じ」「ミステリではなくてキャラ小説」と酷評されることもある(僕は面白いと思うけど)森博嗣や、本格ミステリをぶち壊すような壮大な法螺吹き清涼院流水や、真剣なミステリのアホらしさを暴き、ゲテモノと酷評された蘇部健一が現れることになります。

  「名探偵の登場」「不可解な謎(トリック)」「謎の論理的かつ鮮やかな解明」を大切にする「本格ミステリ」というものがこれからも生き残っていくことは可能なのか。出せば売れるということで、ミステリ界の(どころか出版業界全体の)守り神のような位置を占める東野圭吾が、本格ミステリを大切にしてくれているというのは、本格ミステリにとって幸運なことではないか。

  『名探偵の掟』は東野圭吾の「本格ミステリ」への真摯な態度(というか、愛なのか)がよく分かる1冊です。


自森人読書 名探偵の掟
★★★★

著者:  貫井徳郎
出版社: 東京創元社

  残酷な連続幼女殺人事件が発生。捜査一課長・佐伯は必死で事件解決を目指しますが、捜査は難航。彼が、ある代議士の落としだねだったこと、キャリア組であること、その上妻が上司の娘であることなどが、周囲のノンキャリアの警官達の反発を買い、捜査本部の内部は分裂状態となります。しかも、メディアと世論は無能な警察を徹底的に非難。その上、佐伯が妻子と別居し、愛人宅に通っていたことが発覚し、徹底的に攻め立てられます・・・

  捜査一課長・佐伯のシーンと、奇怪かつ不気味な新興宗教にはまっていく「彼」のシーンが、交互にテンポ良く流れていきます。

  途中まではハードボイルドっぽい雰囲気。ミステリというよりは、サスペンスものとしての色合いが濃いです。なので、あまり好みの小説ではないかも知れない、と思いつつ読み進めていました。ですが最後のところで驚かされました。かなりよく考えられていることが分かります。叙述ミステリ。凄いです、これがデビュー作ということに驚かされます。

  新興宗教の問題などを扱っているので、かなり重たいものを含んでいます。人の心の闇を抉り出したノワール小説(暗黒小説)としての一面を備えているわけです。それでいて一級のミステリ。まぁミステリを読みなれた人にとっては予想できるトリックなのですが、そこは肝ではない気がします。

  最後のシーンには愕然とさせられます。重いものを目の前に突きつけられます。どこにも答えが見つけられないし、救いがありません。どうすれば良いのか、途方に暮れます。「彼」の苦しみが重くのしかかってきます。


自森人読書 慟哭
★★★

著者:  宮部みゆき
出版社: 新潮社

  短編集。『我らが隣人の犯罪』『この子誰の子』『サボテンの花』『祝・殺人』『気分は自殺志願』収録。

  『我らが隣人の犯罪』
  隣の家の犬がやたらとうるさい。なので誘拐し、別の飼い主のもとへ連れ去ってしまおうと少年が、おじさんと一緒に画策するお話。

  と書くと、少年達が悪いことしているみたいですが。なぜその犬はそんなにやかましいのかというと、飼い主の女性から猫かわいがりされているから、らしいのです。散歩にも連れて行ってもらえていないのです。それでは、犬が重いストレスを抱えているのは当然です。だから、誘拐したほうがその犬の解放にもなるというわけ。しかし、意外なところから意外なものが見つかったことで計画は変更され・・・

  宮部みゆきのデビュー作。『我らが隣人の犯罪』は、オール讀物推理小説新人賞を受賞した作品です。多分、ユーモアミステリ。のほほんとした温かい空気があります。昔は、宮部みゆきも日常に寄り添った軽いミステリを書いていたんだ、と驚きました。これ以後は、重厚な社会派ミステリや、歴史小説の領域へと突き進んでいくのに。ちょっと意外でした。

  宮部みゆきという人の文章はとても安定感があって読みやすいです。それでいて決して下品にはなりません。さすがです。だからこそ多くの人に読まれるんだろうなぁ。長編でこそその安定感というものは際立つのですが、短編もなかなか良いです。

  短編ミステリでは、文章のキレや、奇想天外なラストが大事にされることが多いのですが、宮部みゆきの短編はそういう短編として大切にすべき部分も持ちつつ、一方では温かいものも兼ね備えています。素晴らしいというしかないです。


自森人読書 我らが隣人の犯罪
★★★★

著者:  島田荘司
出版社: 講談社

  日本の最北端、宗谷岬のはずれに、大富豪が建てた酔狂な屋敷「流氷館」がありました。その屋敷には異常なところがあります。どこがおかしいのかというと、床でした。傾いていたのです。その変な流水館において、殺人事件が次々と巻き起こります。完全な密室において殺人が発生します。名探偵・御手洗潔にこの事件は解決できるのか・・・?

  御手洗潔がなかなか登場しないので、いらいらというかうんざりします。ですがまぁそこを耐えれば、最後にはあっというしかないような真相が明かされます。

  たぶん日本における新本格/館ものの元祖、みたいなものではないか。島田荘司の2作目。文章が読みづらいのが難点。視点がくるくる変わっていくので、目が回りそうです。これは下手なのではないか・・・ という気もするけど、別にそんなことはないか。

  ミステリ小説作家の中にはけっこう文章が下手な人がいる気がします。別にそこまで「読ませる」文章でなくても良いから、日本語にはなっていて欲しい、と思います・・

  島田荘司の小説の魅力は、何につけても大げさな探偵、御手洗潔と、破天荒な謎解き。

  どちらもびっくりさせられます。これで納得できるのかと聞かれれば納得は出来ないけど(実現は不可能だろう・・・)、しかし凄いし、面白いミステリー小説だなぁとは思います。なぜ屋敷をつくったのかということを犯人が最後の辺りで語るのですが、理由が驚愕です。壮大、というかとんでもない・・・ そんな理由で屋敷を1つつくってしまうのか。さすが富豪、といえば良いのか。


自森人読書 斜め屋敷の犯罪
★★★★

著者:  殊能将之
出版社: 講談社

  少女が次々と惨殺されます。その首にはハサミが突き立てられていました。マスコミは犯人を「ハサミ男」と呼び、凶悪な犯行をセンセーショナルに報じます。一方、警察は犯人逮捕に全力を注ぐのですが、犯人はまったく姿を見せません。そして、とうとう3人目の被害者がでてしまいます。しかし、3人目の少女を殺したのは「ハサミ男」ではありませんでした。自分が狙っていた獲物を奪われた本物の「ハサミ男」は、2人目の「ハサミ男」、つまり模倣犯を追跡するのですが・・・

  トリッキーな叙述ミステリ。殊能将之のデビュー作。

  読んでいる最中、「語り手は誰か」ということを考えてみて一度はトリックに気付きかけました。しかし、視点が錯綜するのでやっぱり違うかも、と考えを改めたら騙されました。だけど、ミステリを齧ったことがある人ならば、真相に気付くかも知れません。この物語の仕掛けは、ある意味では定番ともいえるものだからです。

  とはいえ、全体の構成が見事だし、明快なところもなかなかに良いです。そして、伏線を回収していく手際も素晴らしいです。

  いかにも、京極夏彦的。二重人格なとなどが出てきてその上やたらと分厚くて、しかも最も肝心なところで読者の期待をみごとに裏切るのです。信じられないような偶然が発生します。著者はあえて、そのような偶然を挟み込んだのではないか、と感じます。

  不吉すぎるラストが印象的。

  第13回メフィスト賞受賞作。


自森人読書 ハサミ男
★★★

著者:  法月綸太郎
出版社: 角川書店

  現代彫刻家の川島伊作が病死。彼は、その死の直前に、自分の娘をモデルにした石膏像を完成させて息を引き取ったはずでした。しかし数日後確認したところ、いつの間にか石膏像の首がなくなっていました。そしてそのモデルになっていた娘まで行方不明になってしまい・・・ 名探偵・法月綸太郎にこの謎は解けるのか?

  ミステリ小説。

  タイトルにはどっきりさせられるし、ストーリーは緻密なので、なかなかの力作だとは感じさせられますが。

  基本的に単調だし、張り巡らされた伏線は細かいものばかり。そして、偶然という言葉が持ち出されることが多いのには興醒め。ラストで数々の事実がきちりきちりとはまってくのは楽しいけれど、読後疲労感に襲われます。清涼院流水みたいなすっぽ抜けよりはまだましかも知れないが、法月綸太郎の重さも同じくらい疲れる・・・

  あと、豊崎由美が、「女性を道具みたいに都合よく殺したり妊娠させたりし過ぎ」「1回レイプしただけで都合よく妊娠するかよ?」と書評『正直書評。』で指摘していたけど、その批判は的を射ている気がします。どう考えても、全体の構成に無理がありすぎじゃないか。

  パズルみたいなミステリが大好きな人にはおすすめかも知れません。


自森人読書 生首に聞いてみろ
★★★

作者:  加納朋子
出版社: 幻冬舎

  連作短編集。『トランジット・パッセンジャー』『羅針盤のない船』『笹の宿』『空っぽの箱』『ダイヤモンドキッズ』『待っている女』『ささら さや』『トワイライト・メッセンジャー』収録。

  『トランジット・パッセンジャー』は、自分が突然車に轢かれて死ぬところから始まります。びっくり。そして葬式の場面へと移っていきます・・・ どういうことなのかと思いきや、彼は、幽霊になってこの世に留まり続け、そして妻・さやとユウ坊を見守っていくことに。ほっとします(主人公が幽霊になってほっとするっていうのも変な話だけど)。

  『羅針盤のない船』は、さやがユウ坊を義姉にとられかけるところから始まります。さやは、さやの伯母が遺してくれた家が「佐々良(ささら)」というところにある、ということを思い出したそこへ引っ越すことに・・・ 『笹の宿』では、引越しの際不手際で、旅館・笹の屋に泊まることにしたサヤが奇怪な事態に出会います。しかし、幽霊になったおばあちゃんにとりついて夫が戻ってきて・・・ 『空っぽの箱』は、さやの家に集う3人のおばあさんたちのストーリー、みたいなもの。『ダイヤモンドキッズ』はユウ坊の誘拐未遂事件を描いた作品。『待っている女』はサヤのお隣さんの物語。そのお隣さんはいつも戸を開けて誰かを待っているようなのだが、何を待っているのか全く分からないのですが・・・

  『ささら さや』は、元夫の家族によるユウ坊誘拐作戦再び、の回。ユウ坊が熱をだして慌てていたサヤは、なんとユウ坊をさらわれてしまいますが・・・ 最後の『トワイライト・メッセンジャー』は、幽霊になってしまった夫の1人語り。俺はもうすぐ去るけど、頑張れよ、みたいなメッセージ。最後の物語が一番印象的でした。

  なかなか面白いです。ミステリというよりは、ほんわかとした家族の小説みたいな感じです。その中で巻き起こる日常の謎はまぁそこまで面白いとは言えないんだけど、登場人物たちが魅力的。人を惹きつけるサヤ、幽霊になってこの世に留まり続けるサヤの夫。強烈なおばあちゃん達。みんな面白いです。


自森人読書 ささらさや
★★★★

著者:  乾くるみ
出版社: 原書房

  「必ず2度読みたくなる小説。終わりから2行目が衝撃的!」というようなキャッチコピーが目についたので、手に取ったミステリ小説。まったくその言葉に偽りはありませんでした・・・ 最初から予告されていても見抜けなかったです。

  あらすじの説明は非常に難しいんだけど。物語は、「Side-A」と「Side-B」という2つのストーリーで構成されています。語り手はたっくん。たっくんは、合コンの席で出会ったマユに心を魅かれていきます。そして、2人は恋人になるのですが・・・

  仕掛けは物凄く面白いんだけど(表紙からして凝っています、暗示的・象徴的な物が並んでいるのです、タロットとか)、物語のあらすじはそこまで魅力的ではありません。普通というか、陳腐な恋愛小説です。★2つでも良いくらい。語り手はちょっと独善的な男なので、なおさら読む気がなくなってきます。だけど最後まで読めばどんでん返しが待っているので、それを期待して読めば期待はずれということにはならないはずです、たぶん。

  とはいえ、パズル的な面白さです。振り返ってみて「あそこにも、ここにも仕掛けがあったんだ」ということに気付くものなので、合わない人には合わないかも知れません。

  あと、乾くるみはもともとエログロがかった小説を書いてきた人らしく、わざとらしいまでに露骨なセックス描写とかがあるので、そこらへんに嫌悪感を覚える人は好きになれないかも知れない。それに、バブルの頃の日本が舞台だからでてくる小道具(番組・曲)も古いです。僕には分からなかったものがいろいろありました・・・

  だけどそれらを差し引いてもとにかく凄いです。叙述トリックの傑作だ・・・


自森人読書 イニシエーション・ラブ
★★★

著者:  蘇部健一
出版社: 講談社

  文庫版を読みました。「音の気がかり」「桂男爵の舞踏会」「黄金」「エースの誇り」「見えない証拠」「しおかぜ17号四十九分の壁」「オナニー連盟」「丸ノ内線七十秒の壁」「欠けているもの」「鏡の向こう側」「消えた黒いドレスの女」「五枚のとんかつ」「六枚のとんかつ」「『ジョン・ディクスン・カーを読んだ男』を読んだ男」「最後のエピローグ」「ボーナス・トラック 保険調査員の長い一日」収録。

  凄いと感じました。いろいろな意味で。とくに。ギャグ。ほんとうにしょうもない、というか、もう脱力。呆れるしかないです。

  笠井潔に「たんなるゴミ」といわれた、という伝説の作品。確かに、他作家のミステリ小説のパロディとか、下ネタとか、くだらないジョークとかそういうのが満載の『六枚のとんかつ』なんて認めない、という人も多いのも知れないけど。

  まぁこういうのがあっても良いのではないか、と僕は感じます。推理小説のバカバカしさを、こういう形でおちょくるというのは、それはそれで面白い。別にそれほど深い意図があるというわけではないんだろうけど、この本を読むと、ミステリそのものへの懐疑が生まれてきます。「まじめに謎解きとかやっているけど、バカじゃないか」みたいな。

  けど、食傷気味です。最後まで読むのはちょっと面倒・・・ こういうような作品を何個も読まされたら怒り出したくなるかも知れないです。たまになら読んでも良いかなぁという感じ。

  第3回メフィスト賞受賞作。「メフィスト賞=イロモノを輩出」というイメージをつくりだした作品。その後、優れた作品がメフィスト賞からたくさんでてきたことでそういうイメージは払拭されたらしいけど。それでも、メフィスト賞はやっぱり新人賞の中では異端だよなぁ・・・ 舞城王太郎が飛び出してきたりするわけだから。だからこそ面白いんだけど。


自森人読書 六枚のとんかつ
★★

著者:  京極夏彦
出版社: 講談社

  この世には不思議なことなど何もないのだよ、と言い切る古本屋にして陰陽師、京極堂が世の謎を次々と解明していくシリーズの第一作目。文士・関口や探偵・榎木津らといった個性的な登場人物たちが脇を固めます。20数ヶ月も身籠ったままの女性がいて、その夫は密室から失踪したらしい、という噂話を関口が聞きつけたのが全ての始まりとなります・・・

  語り手が関口というのが悪い。悪いというか、関口が語り手だからこの物語は成立しているのですが(というよりも、語り手が関口ということが最大のトリックみたいなもの)。

  ほんとに彼は、信じられない人物です。肝心なところになると、「忘れた」とか、「見えなかった」とか、「思い出せない」とか、「いやほんとは違ったかもしれない」とか言うのです。もう読んでいて歯がゆすぎて本を打ち捨てそうになります。この本を「最強のアンチミステリ」などと褒め称え、★5つつける人がいるけど、僕には信じられないです。

  まぁ「読む人を選ぶ小説」なわけで、僕は選ばれなかったというだけの話なのですが、読後、笑うしかないと感じました。

  分厚さに比して、壮大かといえば全然そんなことはない。では人の心を深く描ききっているのか、というと別にそういうわけでもない気がする。最後のくどい説明が心の説明らしいけどそんなふうに説明されてもまったくもって納得できないのです。鯨統一郎もバカミスなんだけど、短いから笑えます。だけどこの『姑獲鳥の夏』は、こんな話なのに、分厚い(暑さ5センチくらい)し、やたらと大仰。時間を返してほしい・・・

  京極夏彦の本を1冊読むために、他の本を5冊読めないことになりかねないので京極夏彦の小説にはあまり手を出したくないなぁ、と感じました。

  第0回メフィスト賞受賞作(といわれている)。


自森人読書 姑獲鳥の夏
★★★

著者:  初野晴
出版社: 角川書店

  連作短編集。『結晶泥棒』『クロスキューブ』『退出ゲーム』『エレファンツ・ブレス』収録。表題作『退出ゲーム』は、日本推理作家協会賞短編部門の最終候補になった作品。

  廃部寸前の弱小吹奏楽部のフルート奏者・チカと、その幼馴染で美少年なんだけど、ホモのハルタ。そして2人の恋の相手である音楽教師・草壁信二郎。その3人がいろいろな謎を解決していく、というもの。

  化学部から盗まれた劇薬を追跡する『結晶泥棒』、六面全部が白いルービックキューブはどうやったら揃えられるのか悩む『クロスキューブ』、演劇部と吹奏学部が即興劇で対決する『退出ゲーム』、そしてエレファンツ・ブレスという存在しない色を見つけるために悩みぬく『エレファンツ・ブレス』。

  どれもなかなか面白いです。だけど、文章は軽いし、全体的に薄っぺらい感じ。

  激賞している人がいるけど、僕はそれほどの作品とは思えませんでした。ラノベっぽい、といえば良いのか。いや、ライトノベル(ラノベとはようするにキャラ小説みたいなものだけど)にしてはキャラがいまいちだし、かといってもう少し襟をただした青春小説としては微妙で。ようするに、まとめてしまうと全体的にビミョーなのです。もう少し、キャラ小説のようにしていてくか、それとも生真面目にいくか、決めたらもっと面白くなりそうなのですが。

  青春学園ものっぽいミステリ小説の書き手としては、米澤穂信という偉大な先輩がいるわけで。比べたらかわいそうだけど、『退出ゲーム』よりも古典部シリーズの方が遥かに洒脱で、凄いなぁと思わされます。


自森人読書 退出ゲーム
★★★★★

作者:  近藤史恵
出版社: 新潮社

  サイクルロードレースというあまり一般的ではないスポーツと、その競技の中でしのぎを削る人たちの姿を描いた青春ミステリ。

  サイクルロードレースとは、何百キロもの道程を自転車で駆けていき、ゴールを目指す競技です。先頭を走ると前からもろに風圧を受けます。それなので、敵同士で先頭を争うときでも交替交替に走るので、「紳士の競技」ともいわれるのだそうです。

  サクリファイスとは生贄のこと。アシストのことをさしています。サイクルロードレースのチームには、役割分担があるのだそうです。アシストを踏み台にして勝利へと向かうエースと、自分の勝利のためではなくてエースをサポートするために走るアシスト。アシストは勝つことが務めではありません。エースを風圧から守って先頭を走り、ゴールまで届けるのが仕事なのです。

  主人公・白石誓はアシスト。彼は、常に自分のためではなくて、チームのために走っています。そしてそれに満足もしているのですが・・・ かつて、起きた事故が彼を悩ませることになります。チームのエースが、自分を追い越す才能を潰すためにわざと事故を起こしたのではないか・・・? 力を発揮したら自分も潰されるのではないか?

  青春もの・スポーツものとしても面白いのに、その上ミステリの要素が加わっています。最後まで読むとびっくりします。タイトルが、二重の意味を持っていたことに気づかされます。壮絶なんだけど爽快。

  けっこう軽い本なので読みやすいです。そこもいいところ。

  大藪春彦賞受賞作。2008年第5回本屋大賞ノミネート作(2位)。


自森人読書 サクリファイス
★★★★★

著者:  伊坂幸太郎
出版社: 東京創元社

  引っ越してきたばかりの椎名は、アパートの隣人である悪魔めいた長身の美青年から、突然「本屋を襲わないか」と誘われます。なんとなく断れなかった椎名は、なぜだか、本屋から広辞苑を奪う手伝いをすることになり、モデルガンを持って本屋へ向かうことに・・・

  パラパラと散らされたわざとらしいセリフや、個性的な登場人物たちもそれぞれ面白いんだけど、『アヒルと鴨のコインロッカー』最大の仕掛けは物語自体に施されています。現在の物語と過去の物語を同時並行で描いていくのです。そして、謎が解明されていきます。

  ミステリファンからすると、そこのところががちょっと甘い(種がばれやすい)らしいけど、僕は全然気にならなかったです。まぁそんなにたくさんミステリを読んでいるわけじゃないので。

  ラストは本当に鮮やかです。不思議なタイトルの意味。最後になってそれが明らかになります。爽やかだけど重くて悲しい、そんな感じです、多分。そういえばブータン人のドルジの考え方が面白いなぁと感じました。どこまでもゆったりとしていて、日本人みたいなせかせかしたところがない。

  『重力ピエロ』は、ちょっと好きになれなくて(舞城王太郎と比較したのが間違いだった・・・ 全然別のタイプの作家だよなぁ)、しかし、映画を見にいったからと、『『死神の精度』を読んでみてこれは凄いと感じ、この『アヒルと鴨のコインロッカー』で伊坂幸太郎にはまりました。

  第25回吉川英治文学新人賞受賞作。2004年第1回本屋大賞ノミネート作(3位)。すでに映画化もされています。伊坂作品ってほとんど映画化されているよなぁ・・・


自森人読書 アヒルと鴨のコインロッカー
★★★★

著者:  折原一
出版社: 講談社

  受賞間違いなしと信じて送った推理小説新人賞応募作が、何者かに盗作されていた。怒った「原作者」は、「盗作者」を破滅に追いやろうするのだが・・・

  折原一といえば叙述トリック、叙述トリックといえば折原一、といわれるほど折原一という人は叙述トリックにこだわっている人と聞いて、どんな感じなのかと思い、初めて読んでみました。江戸川乱歩賞最終候補作。折原一の事実上の第1作目。凄く面白かったです。

  途中までは、あまりミステリとは思えないような「原作者」と「盗作者」の暗闘が繰り返されるのですが、最後は、ひっくり返りを繰り返していきます。「倒錯のロンド」というタイトルの意味も最後になって分かるようになってきます。

  物語全体が、トリックというのには驚きました。女性のキャラクターが、男にとって都合良く動いているなぁ、と思ったら狂人の主観なのか。あまり色々書くと完全にネタバレになってしまうんだけど・・・ 予想できない展開を見せます。

  伊坂幸太郎の『鴨とアヒルのコインロッカー』も一種の叙述トリックなんだけど、そっちの作品のつくりが叙述トリックものとしては甘いな、と感じさせられるほど『倒錯のロンド』は凄いです(まぁ『鴨とアヒルのコインロッカー』はトリックというよりは伊坂幸太郎の文体と、その爽やかさと、悲哀が持ち味だから比べるものではないのかも知れないけど)。

  密室トリックに飽きたら(まだ飽きるほど読んでいないけど)、今度は叙述トリックにいけば良いのか・・・ 楽しみが増えました。


自森人読書 倒錯のロンド
★★★

著者:  西東登
出版社: 集英社

  佐野洋・編『最大の殺人』収録の短編。

  会社では閑職に追いやられ、家庭でも孤独な私は、ある日骨董屋さんで壷を見かけます。その壷を、戦時中中国でみかけたことがあるような気がした私は、そこで立ち止まって、壷をまじまじと見つめてしまいました・・・ そしてちょっと興味を持つのですが、その壷のことをいろいろ調べているうちに、戦後の混乱期に壷を中国から持ち帰った男が突如毒死したことを知ります。いったいどういうことなのか・・・

  実は、その壷は、闘わせるために飼育されているコオロギを入れるものとして中国では使われていたそうです。コオロギ同士を闘わせる賭け、というのは面白いなぁ、と思いました。犬や、鶏を闘わせるというのは、昔日本でもよく行われていた、とよく聞きます(闘犬とか、闘鶏とか)。だけど、コオロギというのは全然聞いたことが無い。

  さて、その壷は、そういうふうにして戦争の頃の中国では、コオロギ入れとなっていたのを「私」はみたわけですが、作られたのはだいぶ昔、多分何百年か前です。それ以前はいったい何のために使われていたのだろうか・・・? というのが最後に明かされるのですが。

  実は、昔もコオロギ入れだったのではないか、という推測が示されます。コオロギはりんりんとなきます。だから昔の貴族達は、その壷の中にコオロギを閉じ込め、その音色を楽しんだのではないか? つまり風雅なものだったという訳です。面白い。


自森人読書 壷の中
★★★

著者:  松本清張
出版社: 新潮社

  機械工具商会の経営者・安田辰郎は、料亭「小雪」の女中2人に見送られ、東京駅の13番ホームから出発しようとしていた。その間際、向かいの15番線ホームに、料亭「小雪」で働く女性・お時を見つけた。彼女は、男性とともに電車に乗り込むところのようであった。しかし、安田辰郎と女中たちは、遠慮して声はかけなかった。

  その数日後、お時とその男性が遺体になって香椎の海岸で発見される。警察は、心中とみて捜査を始めたのだが・・・

  推理小説にしては柔らかい文体(もともと芥川賞を受賞して登場した作家だからなのか)。この分厚すぎないちょうど良い長さ。その当時の日本の様子を踏まえた描写。そこらへんが大ヒットした原因なのかなぁ、と感じます。

  今読むと時代の遷り変わりを、強く感じさせられます。その当時は、まだ飛行機旅行は普通じゃなかったそうです。今とは全然違ったんだなぁ・・・ だけど文章は、それほど古臭い感じはしません。普通に読めてしまいます。むしろ、とても読みやすいとすら言えるかも知れない。

  解説の平野謙が、物語の中には重大な欠点があると指摘しているのですが、その主張には頷かされます。確かにその通りだ・・・

  とはいえ、この『点と線』は「社会派推理小説」の始祖ともいうべき作品です。社会性のある題材を扱い、リアリティを大切にする推理小説はここから始まったとすら言われます。少しの瑕疵は仕方ない、というよりか、これまでの現実にはありえないような事件を描く作品群とは違う方向を目指したというところがまず凄いのではないか、と思います。

  まぁとにかく読んでみると面白いです。


自森人読書 点と線
★★★★★

作者:  岡嶋二人
出版社: 講談社

  主人公は、上杉彰彦という男。彼は、「クライン2」という最新鋭の体感ゲームの原作者となり、それのテストプレーヤーにも選ばれます。そして、もう1人のテストプレーヤー・高石梨紗と出会い、彼女と仲良くなるのですが、突然高石梨紗が失踪。上杉彰彦は、ゲーム会社を疑うのですが・・・

  途中までは、なかなか面白いけどだからどうしたと言う感じでそこまで凄いとは思わなかったんだけど。最後の最後になって、どきりとさせられました。これが1989年に出版されているというのは結構凄いことでは無いだろうか。

  現実と虚構が入り混じって、どちらがどちらなのか分からなくなってしまいます。まさかここまで見事にはまってしまうとは思いませんでした。最後のどんでん返しが、とにかく凄いです。タイトル(「クラインの壺」)自体が答えだってことはだいたい察知していたんだけど、それでも見事に嵌められてしまいました・・・ やられた、という感じです。

  岡嶋二人って、なんだか変な名前だから、凝ったメタミステリやアンチミステリを書いているのかなぁ、と思ってこれまで敬遠していたのですが、「岡嶋二人ははずれがない、面白いよ」と聞いたので、読んでみました。そしたら確かにその通りで、とても面白かったです。これから、岡嶋二人の作品をいろいろ読んでいきたいなぁ、と思いました。

  でも、もう今出版されている分しか「岡嶋二人の作品」はありません。岡嶋二人っていうのは、1人の小説家の名前ではなくて、井上泉と徳山諄一がコンビを組んだ時のペンネームです。岡嶋二人は、この『クラインの壺』を刊行した後、コンビを解消してしまったので今はいないそうです。残念です。とはいってもまだ未読の作品はたくさんあるので心配することはないか。


自森人読書 クラインの壺
★★★

作者:  高木彬光
出版社: 集英社

  佐野洋・編『最大の殺人』収録の短編。『最大の殺人』は、戦争が背景にある小説が集められた中短編のはずなのですが、ちょっとこれだけは異色作です・・・ 名探偵・神津恭介が登場。ちょうど太平洋ビキニ環礁で水爆実験が行われ、第五福竜丸が死の灰をかぶった頃の物語。

  陽子という女性が、自分は被爆しているのではないか、と医者に相談します。長い間寝たきりの夫を看病していて、ちょうどその夫が亡くなったところでした。彼女は、広島にも長崎にも行ったことはない。それなのに、調べてみると確かに被爆反応はあります。いったいどういうことなのか。

  実は、犯人は寝たきりの陽子の夫を担当していた主治医の男。彼が、放射性カルシウムを陽子の夫の脊髄にいれたのです。なぜそんなことをしたか。それは、医師が陽子に恋をしていたからでした。彼は、陽子と結婚したいと考えていたので、邪魔な寝たきりの夫を殺してしまったわけです。それでも別に、寝たきりの夫を看病していた陽子が被爆反応を示すことはないはずです。なのに何故反応を示したのか。それは、陽子が夫の遺骨を食べたからでした。

  全然戦争と関係ないじゃないか、と読み終わって思いました。時代背景は活かされているけど。う~ん肩透かしをくらったような不思議な感じです。

  そういえば、名探偵・神津恭介は、江戸川乱歩の明智小五郎、 横溝正史の金田一耕助と並んで「日本の三大名探偵」といわれていたそうです。

  だけど正直言って、神津恭介だけはもう忘れ去られている気がします。明智小五郎と、金田一耕助はたびたびドラマ化されたり映画化されたりして(この前も稲垣吾郎演じる金田一耕助の再放送やっていたなぁ)まだ多くの人に記憶されているのに、どうして神津恭介は生き残れなかったのだろうか。なんでだろう。不思議です。


自森人読書 原子病患者
★★★

作者:  山田風太郎
出版社: 集英社

  佐野洋・編『最大の殺人』収録の短編。山田風太郎の初期の短編の傑作、だそうです。確かにとても面白い。

  同じような奇想と、ちょっとグロテスクな作風から、同じ名字の小説家、山田悠介を一瞬連想するけど、もう全く比較になりません。山田風太郎は、強烈なエログロっぽい雰囲気を発散しながら、それでいてきちりと綺麗な文体だから、薄っぺらい山田悠介じゃ全然太刀打ちできるはずがない。というか、山田悠介はそもそも日本語としての間違いが多くて、そこにまずうんざりです・・・

  『黒衣の聖母』は、敗戦を背景にした絶望感・空虚感が滲み出てくるような感じがします。

  学徒出陣で出征したものの生き延びて、戦後帰ってきた男、蜂須賀が主人公です。彼には、愛する女性・マチ子がいました。ですが、彼女は戦争中空襲に遭って行方不明になってしまっていました。戦場へ出ていった男が生き延び、本土にあった女が死んだ・・・・・ 皮肉です。

  戦後、蜂須賀は闇屋となり、けっこう儲けてそれなりに良い暮らしをするのですが、かつて愛した人のことが忘れられないでいました。そんなある日、かつての恋人とどことなく雰囲気の似た女性と出会います。凄く美人。それでいて実は、パンパン。赤ちゃんを養うために体を売っている、というのです。蜂須賀は出会った彼女のことを「聖女」のように思いながら買い、彼女に溺れていくのですが、実は・・・

  「酒飲んで女を買った、その後女を買うときはなんとなく酒が必要になった」というところがミソ。つまり、意識が朦朧とした中、しかも暗闇で女と抱き合っているので女が入れ替わっていても気付かないのです・・ それがこの物語に仕掛けられたトリック。

  しかも、最後の手紙まで読むとどきりとします。ため息をつきたくなります。この切れの良さ、そしてなんともしがたい薄気味の悪さがぽんと残されるところが、短編の醍醐味だなぁと感じます。


自森人読書 黒衣の聖母
★★★★★

作者:  島田荘司
出版社: 講談社

  事件が起きたのは、1936年2月26日。二・二六事件の起きた日。ある画家が遺書を残して密室で死亡しました。その遺書には、自分の娘と孫娘たち6人の処女をばらばらにし、そこから各部位を選び出して完全な人間(アゾート)をつくるんだ、と書いてありました。そしてその後、遺書は実現します・・・ なんと日本全国から6人の死体が次から次へと見つかったのです。警察は、その難解な事件を解決できませんでした。そうしてアゾート殺人は、迷宮入りしてしまいました。

  時は流れて1979年。颯爽と登場した名探偵・御手洗潔は、アゾート殺人を解決すべく立ち上がります。彼は、親友・石岡和己の詳しい解説を聞きながら、推理をすすめていきますが・・・ すでに事件が終わってから数十年が過ぎています。本当に、御手洗潔に事件は解けるのだろうか?

  御手洗潔シリーズの第1作目。作者から読者への挑戦が、途中にあります。僕は、そこに至っても全く答えをだせていませんでした。どうやったら全部の辻褄があうのか、さっぱり分かりませんでした。でも、最後には全ての謎がきちんと解決します。ラストには感動しました。本当に面白かったです。

  本格ミステリの傑作。

  長い間、探し出すのが面倒で、島田荘司の本を読んだことがなかったのですが、損をしたなぁと思います。シリーズもののようなので、これから1つずつ読んでいこうかなぁ・・・ たいていマンネリに陥ってつまらなくなるけど。でも読んでみないことには面白いかどうかは分からないか。

  御手洗潔の喋りが面白いです。やたらと人をばかにしたような喋り方をする・・・ シャーロック・ホームズをこけにしたり。でも、御手洗潔と石岡和己の組み合わせってホームズとワトソンに似ているよなぁ。そっくりなような気がする。


自森人読書 占星術殺人事件
★★★

著者:  高村薫
出版社: 文藝春秋

  短編集。『愁訴の花』『巡り逢う人々』『父が来た道』『地を這う虫』収録。

  『愁訴の花』
  警備会社に勤めている元刑事・田岡のもとに、先輩刑事・須永が危篤だとの知らせが届きます。ちょうど直後に、牢から出所したばかりらしい、後輩の元刑事・小谷から電話を受けます。彼は、覚醒剤売買に手を出した美人の妻を殺害して逮捕、起訴、実刑判決を受けた男でした・・・ 小谷は須永のことについて田岡に問いますが、なぜ須永のことを気にするのかは、まったく喋りませんでした。

  田岡は当時のことを思い出そうとします。なぜか、小谷の家に置いてあった青紫のリンドウの花のことから記憶は広がっていきます・・・・・

  昔(1999)、「高村薫サスペンス」ということでドラマ化もされたそうです。この暗い物語を映像化か・・・ まぁとてもやりやすそうだけど。地に足がついているし(リアルっていうのかなぁ)、それに分かりやすいストーリーだし。

  小谷の妻は、市井の「普通な人」ではありませんでした。確かに麻薬売買に手をだしていたのです。しかし、秘密はそれだけではありませんでした。彼女はその美貌をもちいて、お金を持つ人たちに体を売って儲けていたのです。つまり売春行為です。ですが、警察はそれを追及することはできませんでした。どこかから圧力がかかってきたからです・・・

  全編、物語舞台は圧力によって、真実を追い求めることがままならぬ警察という組織。う~ん、ありそうなはなしです。高村薫は、明るいラストを用意することがありません。なんというか、夢を見させてくれるような物語と言うよりは、現実の問題を突きつけてくるような感じです。

  嫌いじゃないが、暗い。高村薫のこの重々しさは、やっぱり長編でこそ活かされる気がするなぁ・・・ 『レディ・ジョーカー』の方が僕は気に入っています。


自森人読書 愁訴の花
★★★★

作者:  内田康夫
出版社: 角川書店

  正法寺美也子は、ある古本屋でどこか見覚えのある書物を発見、それを買う。

  8年前、彼女は卒業論文を執筆するべく、後鳥羽法皇が隠岐に流された時の道順を追って旅行したことがあったのだが、その時大雨の結果起きた土砂崩れによって自らの記憶と、友人・浅見祐子とを失っていた。書物は、その失われた記憶と関連がありそうだ、と美也子は感じたのだ。だが、その同じ日に彼女は、広島県のJR三次駅構内で殺害されてしまう。なぜか、買ったはずの書物は消えていた。いったいどういうことなのか・・・?

  1985年出版。名探偵・浅見光彦が初登場する作品。浅見光彦は、「名家の生まれの、ちょっと軟弱そうでハンサムな名探偵」です。彼が登場する作品群はヒットして、何度もテレビドラマ化されています。映画化も1度くらいはされているんじゃないかなぁ。

  僕は、内田康夫という作家をあまり面白くなさそうだ、と思って中学のころからずっと放置していました。だけど高1の夏休みに暇だったので初めて『後鳥羽伝説殺人事件』を手に取ってみて、後悔しました。内田康夫の書いたミステリ小説、かなり面白いです。

  終わり近くなると、犯人が分かってきてしまうところがちょっと玉に瑕かなぁ。最後の犠牲者がでる少し前くらいから、う~ん犯人はあいつしかいないよなぁ、と推測できてしまいます。

  でも、過去の事件と現在の事件をうまくからめていくところは見事です。過去の事件と現在の事件が交錯し複雑に関連し合う、という技巧をこらすとどうしても無理がでてきます。納得できる物語をつむぎだすのはけっこう難しいのです。だけど、『後鳥羽伝説殺人事件』はそこがうまくできています。


自森人読書 後鳥羽伝説殺人事件
★★★★★

作者:  松本清張
出版社: 講談社

  『小説帝銀事件』は、小説というよりルポ、もしくはノンフィクションに近い作品です。語り手はある記者。彼は、帝銀事件の事実を徹底的に洗った結果、「警察・検察の捜査や裁判の結果、犯人とされた画家・平沢貞通は真犯人ではない、実はGHQ(旧日本軍731部隊の人間)に関係のある者が犯人だったのでは?」と推測するもの。

  さて、その帝銀事件とはどういう事件か、というと。
  1948年1月26日、安田銀行板橋支店の閉店直後、東京都防疫班の白腕章をつけた男がやってくる。男は、「近隣で集団赤痢が発生した。GHQがここを消毒する。その前に予防薬を飲んで欲しい」と言って、青酸化合物を銀行内にいた16人の職員達に飲ませる。12人が殺害され、男は、現金16万円と小切手1万7450円を奪って逃亡。
  ・・という冷酷非道なとんでもない事件です。

  その後、テンペラ画家の平沢貞通が真犯人として逮捕されます。虚言癖のある人で、喋るごとにウソをぺらぺら喋るような人でした。彼は、ほとんど拷問に近い尋問の結果、事件のことを「自白」。死刑を宣告されます。

  しかし、物的証拠はほとんどなく、松本清張ら多くの人たちが死刑にしてはいけないという活動をしました。そのため、平沢貞通は死刑にはなりませんでした。結局、37年間の収監ののち、獄中で死去。結局、多くの謎を残したまま事件は終結します。

  松本清張が多くの証拠を挙げて、旧日本軍関係者(多分、731部隊関係者)が真犯人ではないか、と書いているのには説得力があります。そもそも警察・検察も、最初のうちは軍関係者が犯人だろうと考えていたのに、どうしてそういう方面の捜査はうまくいかなかったのか・・・? 駐留軍から圧力がかかったからではないか?

  戦後、731部隊の人たちは豊富で貴重な経験・データ(本物の人体を使った毒ガス・細菌兵器などの非人道的な実験を中国でやっていた)を持っていたことから米軍に様々な形で協力し、重用されました(中国・満州に取り残された731部隊などに属した軍人たちは、中国人やソ連によって殺されたり、裁かれたりしました。しかし、日本に密かに帰還した者達は無事だったのです。)。

  そういう者の中の1人が犯人ではないか。いとも容易く10人もの人の命を奪って平然としているところなども、人を『マルタ』と呼んで人間扱いしなかった731部隊の軍人を想起させます。旧日本軍関係者が真犯人というのは、決してありえないことではないし、むしろそれこそが真実のような気もします。まぁ今となっては、真相は闇の中なのですが・・・


自森人読書 小説帝銀事件
★★

著者:  東野圭吾
出版社: 集英社

  小学校の非常勤講師「おれ」は、推理作家を目指しているためかいろんな学校に派遣されるごとに謎の事件にぶち当たります。なぜかダイイングメッセージがあったり・・・ 「おれ」はクールに振る舞いつつも、なんとなく数々の事件と立ち向かっていきます。

  う~ん、東野圭吾はこんなものも書いていたんだ・・ 意外でした。

  『探偵ガリレオ』などとは全然違うイメージです。なんというか、子供だましっぽい感じだなぁ。「クールな主人公」が、気に食わないです。子どもや他人のことを見下している感じで、だけどはなしが進むごとにいつの間にか「良い人」になっていくんだよなぁ・・・ 結局そうなるのか。

  それに謎解きもしょうがないようなものばかりだし。登場人物に魅力がなくて、謎解きもつまらないようではどうしようもない。

  もうこれ以上書くことがないです。


自森人読書 おれは非情勤
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