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自森人-自由の森学園の人-の読書ブログ
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★★★★★

著者:  ホルヘ・ルイス・ボルヘス
出版社: 岩波書店

  『伝奇集』は、『八岐の園』と『工匠集』が合わさった短編集。

  『八岐の園』には『トレーン、ウクバール、オルビス・テルティウス』『アル・ムターシムを求めて』『『ドン・キホーテ』の著者、ピエール・メナール』『円鐶の廃墟』『バビロンのくじ』『ハーバート・クエインの作品の検討』『バベルの図書館』『八岐の園』が収録。『工匠集』には『記憶の人フネス』『刀の形』『裏切り者と英雄のテーマ』『死とコンパス』『隠れた奇跡』『ユダについての三つの解釈』『結末』『フェニックス宗』『南部』が収録。

  ホルヘ・ルイス・ボルヘスはアルゼンチンの小説家。ですが、ラテンアメリカの小説家たちに多大な影響を与えたため、世界的に著名だそうです。

  説明しがたい短編がずらりと並んでいます。

  それぞれの短編の中に広大な迷宮/世界が存在しています。難解だけど、物語自体は短いのでけこっうあっさりと読みきることが出来ます。

  ボルヘスは、観念的なことを乾いた文章で淡々と綴っていくので、普通の小説とは少し読み応えが違います。描写から想像していくことができない、というか、掴みどころがない、というか、本当に文章を読んでいると感じるのです。

  説明しづらいのだけど。物語を要約した結果、浮かび上がってくる構造・全体像について論じられているのだけど、それが一般的な感覚では把握できず、その構造自体も言語に寄りかかったものだから浮遊的で実体がない、というような感じ。実態のないものに関する構造を綴っている、というか。この言葉自体の不可解さを明らかにする、奇妙な味は本当に楽しいし、素晴らしいです。

  たとえば、『バベルの図書館』は、どこまでも構造的に広がっていて果てのない図書館についての物語。そこにはあらゆる本が収められており、しかし同じ本は2つとないようなのですが・・・

  小説っぽくないのに、小説でしか出来ないことをなしとげた小説、なのかなぁ。『伝奇集』を論ずることは一生かかっても不可能なのではないか、と感じます。本当に面白い短編集。


自森人読書 伝奇集
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★★★★★

著者:  高橋源一郎
出版社: 講談社

  詩人の「わたし」は女性と出会い、愛し合います。そして、彼女には「中島みゆきソングブック(S・B(ソング・ブック))」という名前をあげ、彼女からは「さようなら、ギャングたち」という名前を貰います。そんな、わたしと「S・B」と猫である「ヘンリー4世」の日々を描いた作品。詩とは何か、言葉とは何かといった問いや、分からないものとの出会いなどが、ポップな文体で綴られていきます。

  高橋源一郎のデビュー作。第4回群像新人長篇小説賞優秀賞受賞作。

  ポストモダン文学の最右翼とも言うべき作品。ページには空白が多くてスカスカしているのだけど、それでいて深い物を含蓄しているように見えます。文章が進むごとに、物語が更新されつつも変容していくので訳が分からなくなりますが、とにかく面白いです。

  役所から送られてきた通知を読み、娘が死ぬことを知った上で、彼女との1日を過ごす場面が一番心に残りました。なんというか本当に不条理で、哀切に満ちています。

  著者自身の半生をまとめたものとして読むことも可能らしいです。ある意味では私小説なのか。

  小説の可能性を感じさせてくれます。小説は、ぐにゃっとしたよくわからないものを取り込むことができるし、様々な読み方を促す不可解さをもちあわせていても良いのだということを教えてくれます。言葉っていうのは本当になんなんだろうか。

  ただし、高橋源一郎の小説はとても捉えづらい・・・ 様々な人(有名な評論家とか)が『さようなら、ギャングたち』を激賞し、価値があるものとして捉えているようですが、本当のところ訳が分からないのです。その多義性こそがポストモダン的である、ということなのかも知れないのですが。

  読みやすいし、面白いし、言いたいことは分かる気もするけど、その良さを説明しづらいのです。根本的に分析的な言葉で区切りにくいように出来ている、というか。どのような感想を書いてもそれなりに正しいように思えるし、やっぱり間違っているようにも思えるのです。ただし、そういう多様な読みを求めているが故に、『さようなら、ギャングたち』は素晴らしい小説なのかも知れない。読後、満腹感を味わえます。逆に言うともうこれ以上読みたくない、ということなのだけど(本当に疲れるので・・・)。


自森人読書 さようなら、ギャングたち
★★★★★

著者:  G・ガルシア=マルケス
出版社: 新潮社

  まだマコンドが小さな街だった頃、ふらりと現れたジプシーの賢人・メルキアデスと仲良くなったホセ・アルカディオ・ブエンディアは、優れた指導者ではなく錬金術などに入れ込む変人になってしまいます。ジプシーたちは強力な磁石や望遠鏡や空飛ぶ絨毯を次々と持ち込みますが、ホセ・アルカディオ・ブエンディアの妻ウルスラはそれらには目もくれず、アルカディオ、アウレリャノ、アマランタ、拾い子レベーカといった子どもたちを育て上げました。アルカディオはピラル・テルネラに夢中になりますが子どもができたと知ると失踪。一方、アウレリャノは内向的で父親とともに引きこもり、様々な研究に精を出しますがレメディオスという少女に惹かれます。アマランタ、レベーカはピエトロ・クレスピをめぐって反目しあいますが・・・

  マコンドという地を拓き、100年にわたって繁栄し、近代化の狂奔の中で腐敗し、消え去っていくブエンディア一族の物語。

  世界文学と絶賛されているけれど、小難しいことはなくてむしろ読みやすいし、物凄く愉快です。同じような名前の人がやたらと多いので大混乱しますが。

  要約不可能。蜃気楼の村マコンドではなんでも起こります。空飛ぶ絨毯まで持ってくるジプシーたち。チョコを飲んで浮遊する神父。内向的で、未来を予測する少年アウレリャノ。盲目になっても匂いで全てを把握する気丈な母親ウルスラなどなど変人奇人が溢れています。

  最初のうちは神話的なのですが、じょじょに生々しくなっていきます。少年の頃は内向的だったアウレリャノが自由党側に属し、政府軍に対して何十度も叛乱を起こすようになります。次々と様々な人があっけなく、時には無惨に死んでいきます。処刑。惨殺。暗殺。虐殺なんでもあり。そして、バナナ会社が街に侵入してきます。マジックリアリズムの手法でもってラテンアメリカそのものを表現したといわれる理由が分かってきます。

  それにしても物凄い、というしかないです。最後の辺りには著者自身が少しだけ登場。そしてラストでは物凄い真相が炸裂。登場人物たちの一生は何であったのか、と考えさせられるし、悲哀に満ちています。孤独にとりつかれた一族の歴史自体が消え去っていく・・・


自森人読書 百年の孤独
★★★★

著者:  西村賢太
出版社: 講談社

  短編集。『墓前生活』『どうで死ぬ身の一踊り』『一夜』収録。

  3つの短編とも、芝公園で凍死した無頼作家・藤澤清造に共感を覚えている私が主人公。私は6歳年下の女と同棲するようになり、彼女の給料で暮らし、彼女の親から借りたお金で藤澤清造全集を出そうとします。しかし些細なことで逆切れし、彼女に何度も暴行を加え、そのたびに彼女は実家へ帰ってしまうのですが、その途端に私は卑屈な態度をとり、戻ってくるように懇願し・・・

  あまりにも無惨で救いがたいダメな男の日常を綴った陰惨な私小説。

  本当に笑えます。なんというか、凄いというしかないです。トイレの蓋があがっていなかったからと言って女に対して激怒し始めるところなどは、もうなんとも言いがたい。そもそも同居している女性のことを「女」としか表記しないこと自体が反時代的です。

  しかし、それでいて文章は非常に端正なのです。藤澤清造というマイナーな作家への思慕を切々と書き綴っていることからも分かるとおり、著者は日本の小説をたくさん読み、『どうで死ぬ身の一踊り』を書いているのだろう、と思います。

  主人公のような人と接したいとは思わないし、全然共感もできないけれど、『どうで死ぬ身の一踊り』という小説自体は暗いのに笑えて面白いです。

  西村賢太ってどのような人なのだろう・・・


自森人読書 どうで死ぬ身の一踊り
★★★

著者:  保坂和志
出版社: 講談社

  競馬を気に入っているぼくという男が主人公。ぼくは最近、子猫に惹かれるようになり、餌をあげるようになります。しかし、なかなか寄ってきてはくれません。子猫ではなく、アキラ、よう子、島田といった自主映画作りに取り組む若者たちがぼくの家へ次々と現れます。彼らとの日々は非常にたわいもないものでした。最後、彼らはアキラが運転手として連れてきたゴンタとともに海へ赴きます・・・

  様々な人間たちと、その関係を描いた作品。保坂和志のデビュー作。

  なにげない日常をさりげなく描いた小説のように見えます。しかし、決して普通の小説ではありません。個々のキャラクターや物語の粗筋ではなくて、場の空気や人間同士の関係が主題として据えられているところは非常に挑戦的。

  四方田犬彦の解説がとても良いです。書いてあることがいちいちもっともなので、とくに付け足すことがないのですが・・・ 「小説家を目指しながらそれを諦め、映画作りに専念するゴンタという人物の思考・視点が、作者の思考・視点と一致している」と解説者は指摘していますが、その通りだなぁと感じました。

  普通の映画というものは喋っている人間を画面の中心にもってきます。しかし、そうではなくてそれを聞く側の動きや、全体の空気や些細な部分こそが肝要なのではないか、とゴンタは語ります。なかなかに意味深長です。ゴンタの言葉が『プレーンソング』という作品自体を説明していると言えます。少々説明過多な気もしたけど、それくらいしっかり説明してくれた方がわかりやすいか。

  人間は一人で存在することは出来ず、関係や空間によってつくられる、という思想が語られているような気がしましたが、その部分にも共感します。

  小説や世界の構造というものについて考えさせられる小説。


自森人読書 プレーンソング
★★★

著者:  三羽省吾
出版社: 文藝春秋

  リストラされた父親が失踪。14歳の次男ケイは陸上部をやめ、新聞配達を始めました。17歳の長女カナはアルバイトを始め、深夜まで家に寄り付かなくなります。27歳の長男リュウは突如として家に帰ってきて家族の面倒を見ようとします。42歳の母・薫は昼から酒浸り。73歳の祖父・新造はボケが進行してきて会話が成立しません。家族ともいえないような家族は、いったいどうなるのか?

  家族と言うものを描いた作品。

  「十四歳」「十七歳」「二十七歳」「四十二歳」「七十三歳」によって構成されています。それぞれの視点から、家族のことが語られます。非常によく練られています。読み終わったときにはなんだか温かい気持ちになっています。

  ただし、気になった部分もありました。全体的に金城一紀っぽいのです。がさついた文体といい、ちょっと良いはなしに落ち着くところといい、そっくりです。まぁ悪くはないのだけど、取り立てて『厭世フレーバー』が面白いということはなかったかなぁ、と思ってしまいました。

  ついでに設定が似ているからか、平安寿子の『グッドラックららばい』を思い浮かべてしました。どちらというとドロッとしたものも掬い上げている『グッドラックららばい』の方が面白かったかなぁ・・・

  まぁサクッとしているところは悪くないです。深く感動するというわけではないけれど、少し温かい気持ちになれる良い佳作。


自森人読書 厭世フレーバー
★★

著者:  チャールズ・ディケンズ
出版社: 新潮社(村岡花子訳)

  初老の商人スクルージは書記としてボブという男を安く雇い、ロンドンの下町に事務所を開いています。彼は、決して他人のためには金を使わず、人間の心や愛などいうものを気にかけたことはない冷酷な守銭奴でした。あるクリスマスイヴの夜、かつての共同経営マーレイの幽霊が現れ、これから毎晩三人の精霊が現れるだろうと告げます。そしてその言葉通り、毎晩、過去・現在・未来のクリスマスの霊が現れ、スクルージは悔い改めることになります・・・

  文豪ディケンズの作品の中でもとくに有名なものの一つだそうです。もともと「クリスマスの本」シリーズの第1作目として出版されたらしい。まさにクリスマスにぴったりの本。

  吝嗇への戒めや弱者への慈愛がテーマとなっています。

  しかし、全体としては堅苦しいことはなく、むしろ軽快です。いきなり幽霊が出てきて、しかも精霊までぞろぞろと登場するのです。登場人物たちも筋書きもすっきりくっきりしています。暗くて孤独で笑わないスクルージと笑いに満ちた甥一家の対比など、とても分かりやすいのです。

  まぁ非常に類型的ではあるけれど、それでも面白いし、人のために何かを為すということは大切だよなぁ、と思わされます。

  当時の英国の街や家々についての描写は興味深かったです。やっぱり今とは違って夜は物凄く暗かったんだろうなぁ、と考えたりしました。

  クリスマスにぴったりの1冊。


自森人読書 クリスマス・カロル
★★★★

著者:  小林恭二
出版社: 福武書店

  小林恭二の短編集。『電話男』『迷宮生活』収録。

  『電話男』
  電話越しに様々な人の言葉を聞き、その人の心を受け止めることを務めとしている電話男の独白。電話男たちはどこから出現し、どこへ向かうのか。そして電話男たちの最大の敵とは? 第3回海燕新人文学賞を受賞したデビュー作。

  『迷宮生活』
  K氏は自分でつくったそれなりのルールに従って淡々と日々を過ごしています。彼は無為の日々の中で変な思想を抱き、意味のないことを繰り返しています。しかし、その内神をつくろうとしてとんでもないことになっていきます・・・

  高橋源一郎や島田雅彦とともに「ポストモダン文学」の旗手といわれる小林恭二の作品はサクッとしています。やっぱり、他の「ポストモダン文学」作家の人たちと同じように人懐こくてポップで読みやすいのです。まぁ内容はちょっと不可解な感じもしますが、高橋源一郎と比べれば露骨というか、分かりやすい方かもしれません。

  『電話男』は名作。文体と文章はさらさらしていて少し足りないくらいなのに、分かり合えないことが前提となってしまった断絶の時代の中で苦しむ孤独な人間たちの抱え込んだ苦しみと哀しみが的確に、それでいてぼんやりと表現されています。なんというか、劇を意識したらしいわざとらしい雰囲気もいいです。

  すでに言語や理性すら頼りにならない今、いったいどこを目指して生きていけばいいのか。本当に考えさせられます・・・


自森人読書 電話男
★★

著者:  池澤夏樹
出版社: 中央公論社

  池澤夏樹の短編集。『スティル・ライフ』『ヤー・チャイカ』収録。

  『スティル・ライフ』
  染色工場でアルバイトをしていたぼくは、同僚の佐々井と親しくなります。佐々井は染色工場での仕事をやめた後、ぼくにある企みをもちかけてきます・・・ 中央公論新人賞・芥川賞受賞作。

  『ヤー・チャイカ』
  娘を家に残し、仕事に出掛けた父はひょんなことからソ連から来た男・クーキンと親しくなります。女の子と恐竜ディプロドクスとの交流の物語が途中途中に挟まれます。むしろ僕は表題作よりも好きでした。

  池澤夏樹の小説は、いかにも「御伽噺」のようにみえます。基本的に単調だし(素人っぽいし)、ご都合主義的なのです。だから、小説としての完成度は低いように思えます。

  しかし、美しい文章が散りばめられているため、そのたびにはっとさせられ、惹きつけられます。小説らしくない「スナップのような小説」といってしまっても良いかも知れません。それまでは詩人として活躍していたことが影響しているのかなぁ・・・

  ただし、スナップ的なのだけど、分析的な面も併せ持っているため摩訶不思議なことになっています。世界は様々な部品によって組み立てられたシステムの複合体なのだというような思想が背景にあるみたいなのです。その摩訶不思議さが非常に面白いです。


自森人読書 スティル・ライフ
★★★

著者:  中島たい子
出版社: 集英社

  みのりは、元カレが結婚すると知ってから突如として体調を崩してしまいます。固形物をほとんど食べられず、その上震えが止まらなくなって救急車で病院に運びこまれることもありました。しかし、どこの病院に行ってもとくに悪いところは見つかりません。そして、最終的にたどり着いたのは漢方診療所でした。そこにはかっこいいお医者さんがいて・・・

  あらすじだけ読むと陰鬱な小説っぽいですが、実は愉快な小説です。

  もともと脚本を書いていた人らしく、物語としてもきちりとまとまっています。シリアスな部分もあれば、コミカルな部分もあり、バランスがとれています。読みやすいです。

  30台の女性にとって結婚というのは本当に難しくて面倒な問題なんだろうなぁ、と読んでいて改めて思いました。主人公みのるや周りの女性たちは結婚できずに「負け犬」になることを受け入れるわけではないし、決してめげないというわけではないけれど安易に結婚に飛びつきはしません。でもときには揺れることもあります。そこらへんの微妙な心の移り変わりが真面目に、だけど面白く書かれています。

  漢方に関する説明はかなり真面目できっちりしています。

  僕は漢方診療所に行き、薬も貰ったことがあるのですが、細かいところまで正確に描写されていることには感心しました。「西洋科学に則ったものではないけれど、長年の治験の上に成り立っている」ということや、漢方の基本的な考え方までまとめられています。これを読んで漢方診療所に行こうと思う人もいるのではないかなぁ・・・

  第28回すばる文学賞受賞作。


自森人読書 漢方小説
★★★★

著者:  高橋源一郎
出版社: 河出書房新社

  不可解な小説。

  『Ⅰ. 偽ルナールの野球博物誌』『Ⅱ. ライプニッツに倣いて』『Ⅲ. センチメンタル・ベースボール・ジャーニー』『Ⅳ. 日本野球創世奇譚』『Ⅴ. 鼻紙からの生還』『Ⅵ. 愛のスタジアム』『Ⅶ. 日本野球の行方』によって構成されています。章ごとに登場人物も、内容もバラバラ。

  「野球」を巡る小説と捉えていいのかどうかすら、いまいち分かりません。その最も大切なテーマというべき部分には「野球」ではなくてたとえば「文学」という言葉を代入することも可能なのではないか。いや、むしろ日本野球とはすなわち日本文学なのではないか。

  踊る言葉の意味が分からなくて、読めば読むほど奇妙な気分になります。現代演劇に近い。

  ポップでサクッとした文章は意味不明でありながら意味深長。いくらでも意味や問いかけを見出すことが可能な気がします。しかし、意味を文章の中から読み取ろうとすることに意味があるのだろうか。『優雅で感傷的な日本野球』は、意味なんていうものはどこからでも拾いだすことができる、と教えてくれているような気がします。

  笑えるところは良いです。『Ⅳ. 日本野球創世奇譚』の辺りになってくると少しうんざりした気分になってきますが、それでもやっぱり面白いです。「日本野球」の誕生を神話で説明してしまうとは・・・ 劇作家が「1985年、阪神タイガースは優勝しなかった」と語りだす『Ⅶ. 日本野球の行方』が最も分かりやすいです。優雅で感傷的な日本野球というものの姿が案外明確に示されます。

  記念すべき第1回三島由紀夫賞受賞作。


自森人読書 優雅で感傷的な日本野球
★★★★

著者:  笙野頼子
出版社: 講談社

  『なにもしてない』に続く笙野頼子の短編集。『居場所もなかった』『背中の穴』収録。

  『居場所もなかった』
  私は東京に住む小説家。気に入っていた部屋を追い出され、どこかへ引っ越すことになるのですがオートロック付きの部屋に拘るため、なかなか良い部屋が見つかりません。そして、最終的に引っ越した先では狂いそうなほどの騒音に苦しめられます。再び部屋を探す中で、女性・無職な人間に対する差別というものをひしひしと感じるようになります。彼女は過酷で卑劣な現実との格闘を、現実を露骨にしたような妄想(虚構)を交えつつ、書き綴っていきます。

  『背中の穴』
  奇怪な布を被った人と普通の人に手伝ってもらい、引っ越すのですが、その中で背中の穴があった母や祖母のことを思い出します・・・

  笙野頼子の小説は、全く爽やかではありません。陰鬱です。読んでいると少し辛いし、主人公の暗い感情が伝染してきそうです。しかし、今回は主人公の暴走しまくりの妄想が各所に入り混じるので少し笑えます。「私」の徹底的な拘り(オートロック付きの部屋でないとヤダ)は滑稽です。けれど、分からないでもありません。「私」の妄想は、生きることが困難な社会に対する過剰反応なのではないか、と思います。

  それにしても引越しを書くことで、社会と「私」の病気を明確に抉り出していく笙野頼子の筆致は素晴らしいです。小説というもの自体に対するツッコミすら挟まれています。本当におかしい。藤枝静男の影響が全体的に感じられます。

  文学を蹴落とそうとする人間たちを罵倒しまくるあとがきがまた凄いです。あとがきも1つの作品と化しています。


自森人読書 居場所もなかった
★★

著者:  野中柊
出版社: 福武書店

  『アンダーソン家のヨメ』は野中柊のデビュー短編集。『ヨモギ・アイス』『アンダーソン家のヨメ』収録。

  『ヨモギ・アイス』
  第10回海燕新人文学賞受賞作。野中柊のデビュー作。ヨモギは白人ジミーとの国際結婚の後、アメリカへ行きます。彼女の朝の日課は体重を測ること。アメリカの食べ物のために太ってしまうのがいやなのです。そんなある日、引越ししたはずの隣人の飼い猫・タマを見つけ・・・

  『アンダーソン家のヨメ』
  ウィル・アンダーソンと国際結婚することにしたサトー・マドコ。彼女東南アジアでのハネムーン旅行の後、アンダーソン家を訪ねます。そしてそこで結婚を祝ってもらうことに。マドコはアンダーソンと名乗りたくはないのですが・・・

  全体的にけっこうサクッとしていて軽いです。

  横文字やカタカナが多用されています。それによって異質な何かが含まれているような感じがします。非常に巧い仕掛けだなぁ、と感じました。雑多なものを受け入れる(受け入れられる/受け入れてしまう?)日本語ってなんだろう、と少し考えてしまいました。

  人種を越えて結婚する男女が描写されることによってそもそも家族とは何なのか、と考えさせられます。それは何に裏打ちされているのか。というか、何のためにあるのか。結婚することによって2人が幸せになることを目指しているのだろうけど、幸せってそもそもなんだろう。平等に幸せになるなどということは多分ありえないわけだし。う~ん、難しい。


自森人読書 アンダーソン家のヨメ
★★★

著者:  古井由吉
出版社: 中央公論新社

  『円陣を組む女たち』は古井由吉の短編集。『木曜日に』『先導獣の話』『円陣を組む女たち』『不眠の祭り』『菫色の空に』収録。

  『木曜日に』
  古井由吉のデビュー作。男は都会から離れて御越山に登り、木曜日に幻想的な出来事に遭遇します。都会に帰ってきた後、木曜日というものの辛さに気付くことになるのですが・・・

  『先導獣の話』
  田舎に行っていた間に都会の感覚を忘れていた男は、都会の喧騒の中で精神的に追い詰められていきます。そして先導獣というものを妄想します。

  『円陣を組む女たち』
  三月のある夕暮れ、私は十人くらいの若い女たちが奇妙な円陣を組んでいるところを見かけます。いったいその円陣は何なのか?

  『不眠の祭り』
  祭りに行き、いやいや踊ることになった男は帰ってきてから眠れなくなってしまいます。不意に踊りの音楽が聞こえてきて・・・

  『菫色の空に』
  賀夫は旧友・五百沢とテニスをしているうちに自分と彼との間に異様な隔たりがあることを感じます。その後、肌着がなくなり・・・

  言葉がぎっちり詰まった濃密な文体にはとにかく圧倒されました。読み進めるだけで一苦労。読むという行為が限りなく苦行へと近づいていくように感じられました。

  主人公(男)たちはみな、純粋さを追求し、べたべたしたしがらみを嫌悪します。自閉的なのです。そして彼らは世界を不可解なものとして、女を異質なものと捉えています。親友は男だけ。ハードボイルドチック。さすが「内向の世代」といわれだけはある、と感じてしまいました。読んでいると疲れるし、登場人物の鬱が伝染してきて引きこもりになりそうです・・・

  『円陣を組む女たち』というタイトルはなんだかいかにも「文学」という感じだなぁ、と感じました。


自森人読書 円陣を組む女たち
★★★★★

著者:  ジョージ・オーウェル
出版社: 岩波書店

  1927年から3年間に渡って最底辺の社会に身を置き、極貧の生活を経験したジョージ・オーウェルが書いた手記的/ルポタージュ的な小説。

  20世紀初頭のパリ・ロンドンのことを知ることが出来ます。著者は労働者たちと同じ目線で辺りを見渡し、放浪者たちと仲良く過ごします。生活環境は劣悪だし(ベッドには南京虫が這い、食べ物もろくにない)、変人は多いし、いつでも罵倒と文句が飛び交っているのだけれど、彼らの生活には温かみがあります。死にそうになった時、頼ることの出来る誰かが隣にいるのです。個人主義の横行する今とは違うのだなぁと感じます。

  ジョージ・オーウェルの社会に対する鋭い視線には感心します。放浪者たちを蔑むのは間違っているし、彼らが無気力に陥っているのは本人たちの資質の問題ではなくて状況がそうさせているのだという冷静な分析には納得させられます。

  今の日本にも同じ指摘が当てはまるのではないか、と思います。「フリーターは好きでぶらぶらしているんだ」などと言う人がいますが、それは不正確な認識ではないか。これまで長きに渡って社会と企業は一致団結してフリーターを生み出そうとしてきたわけです(「新時代の『日本的経営』」を読めばよく分かる)。国家や社会がそのような使い捨て可能なパーツとしての人間を生み出す努力をしてきたのに、個人に全責任を転嫁する/押し付けるのは卑劣ではないか、と思います。

  『パリ・ロンドン放浪記』を読むと貧困問題は大昔からあるのだということがよく分かります。しかも、それは誰かの都合や法の不備のために生み出されているということも理解できます。巧みに人間を描き出した小説としても面白いのに、貧困について考えることもできます。

  深みのある良書。


自森人読書 パリ・ロンドン放浪記
★★

著者:  サマセット・モーム
出版社: 岩波書店

  美女ヴィクトリアは、夫ウィリアムが戦死したと聞かされ、その親友だった陸軍省勤務のフレデリックと再婚します。ですが、美貌を誇る彼女のもとには金持ちペイトンなども通ってきています。ようするに彼女は美貌のために男でも何でも手に入れられたわけです。そのためかとても我が儘なためフレデリックも手玉に取られていました。そこへ、戦死したはずのウィリアムがひょっこりと帰ってきます。ウィリアムとフレデリックは猛烈な勢いで、互いにヴィクトリアを譲り合うのですが・・・

  戯曲。喜劇。

  とてつもなく明快。いくらなんでもありえないほど身勝手なヴイクトリア、親バカ丸出しのシャトルワース夫人、典型的な成金ペイトンらが脇を固めています。分かりやすい一面的なキャラクターがそろっているわけです。物凄い世界です。

  その中で、我が儘な美女ヴィクトリアに束縛されることを恐れるあまり、右往左往するウィリアムとフレデリック。2人のやりとりは少しだけ憐れだけど愉快です。

  社会風刺も含まれているけれど、基本的には何かを考える必要はありません。とりあえず笑えます。理屈抜きで楽しめます。ただし、演劇になったらそれはそれで面白いのかも知れないけど、このままだと少しベタ過ぎるような気がしました。最後まで読みきると少し疲れます。まぁベタであることこそが笑いの基本なのかもしれないけど。

  というか、笑いというものは、やはり文化に根ざしたものだから翻訳するのは難しいのかも、と感じました。


自森人読書 夫が多すぎて
★★★

著者:  島田雅彦
出版社: 新潮社

  『優しいサヨクのための嬉遊曲』は島田雅彦の短編集。『優しいサヨクのための嬉遊曲』『カプセルの中の桃太郎』収録。

  『優しいサヨクのための嬉遊曲』
  主人公は千鳥姫彦という青年。彼は、反抗期の大学生。大学のサークル活動としてサヨク活動に関わっています。具体的には「社会主義の民主化」を実現するべくソ連の収容所の人たちの状況を改善しようとしています。一方では、美少女みどりに憧れ、彼女のお婿さんになりたいと望んでいるのですが・・・

  『カプセルの中の桃太郎』
  大学生クルシマは、自分の小さなペニスをいつも庇うようにしています。しかし、いつしか自分を「良い子」にしてしまった世間に対して戦いを挑むべく立ち上がるのですが・・・

  現実と架空が入り混じり、言葉遊びが跳ね回っている不思議な小説です(ちょっと『不思議の国のアリス』を連想)。『優しいサヨクのための嬉遊曲』は、妄想的な恋愛小説でありながら社会というものと対面するべく若者が奮闘する物語としても読めます。

  とはいえ、青年が成長したかというとそれは疑問です。そもそも今の社会において成長するということはいかなることなのかさっぱり分からないからです。この物語の場合、主人公は「愛」に気付くわけですが。

  一般に言われるようなイデオロギーではだめだけど、「愛」という一種のゆるいサヨク的なるイデオロギーによって自分の居る場所(具体的には家庭とか)から世界に向き合うんだ、と言う主人公には賛同したくなります。ただし、それによって本当に社会と向き合えるかどうかはいまいち分からない・・・ 結局のところ楽な道に逃げ込んでいるだけではないか、と言う気もするし、日本的な「空気」に呑みこまれかねないのではないか。


自森人読書 優しいサヨクのための嬉遊曲
★★★

著者:  柴崎友香
出版社: 新潮社

  柴崎友香の短編集。『ハイポジション』『クラップ・ユア・ハンズ!』『夢見がち』『束の間』『寝ても覚めても』『ドリーマーズ』収録。

  『ハイポジション』
  今日の朝夢見たことを語ります。

  『クラップ・ユア・ハンズ!』
  家の中には自分以外の何者か、多分以前の住人の雰囲気が存在していて・・・

  『夢見がち』
  一番印象的でした。電車の中で、ある青年が幼い頃経験した不可解な出来事を語るのですが、それは出来事は本当にあったことなのか夢なのかいまいち分かりません。彼は、「車に轢かれたはずなのに気付いたら無事だったのだが、家に帰ってみると知らない人が出てきて、辺りの知り合いの家を訪ねたら誰も出てこなくて、公園に行くと小さい子しかいなくて・・・」というようなことを語るのですが、その感覚は分からないでもないです。

  『束の間』
  新宿での年越しと京都での年越しが交錯し、今がいつなのか分からなくなってしまいます。年の変わり目の空白感のようなものが巧みに表現されています。

  『寝ても覚めても』
  台風が迫る中、高層ビルの上や暗いところなどいつもとは少し違う環境で過ごしてみます。するとどうなるのか。

  『ドリーマーズ』
  現実と夢が入り混じっているような状態が続いています・・・

  さらりと文中に挿入されている周辺の些細な物事の描写が非常に巧いし、面白いです。だから、主人公の周りに存在する物は最近の若者が好む物(ポテトチップスとか)ばかりなのに、作品の雰囲気はいかにも古風で文学的。


自森人読書 ドリーマーズ
★★★★★

著者:  サミュエル・ベケット
出版社: 白水社

  「どうにもならん」という一言から始まる戯曲。エストラゴンとヴラジーミルは、ずっとゴドーを待っています。いつまでも待っているのにゴドーは現れません。2人は靴を脱いだり、無意味なことを言い合ったり、通りがかったポッツォと問答を繰り返したりするのですが・・・

  現代演劇に大きな影響を及ぼした斬新な作品だそうです。不条理演劇の代表格。

  無意味で滑稽でシュールな会話が延々と繰り返されていきます。何かが起こるのかと思いきや、とくに何も起きません。そもそもゴドーとは何者なのか判明しません(ゴッドと引っ掛けているらしいけど)。何にも起きないし、なんだかよく分からないからこそ、些細な言葉を気にかけることになるし、様々なことを想像することになります。

  各所に自己言及性を帯びたセリフが散らばっており、変な気分になります。舞台において演じられている『ゴドーを待ちながら』とそれを見ている観客との間には、すでに何の差異も存在しないのではないか。一定のルールに縛られていた演劇さえも、曖昧な現実の中に乗り出していくしかなかったのかなぁ。大変だ・・・

  読んでいても、あまり笑えません。隔靴掻痒という言葉を思い浮かべます。なんというかすっきりしなくはないのだけど、別にどうということもないのでなんとも言いようがないのです。演劇になれば、それはそれで面白いのかも知れない。いつか誰かが演劇にしていたら見てみたいです。

  サミュエル・ベケットは、『モロイ』『マロウンは死ぬ』『名づけえぬもの』などの小説を書いている間に、力を抜きつつ『ゴドーを待ちながら』という戯曲を書いたのだそうです。それが歴史に残る戯曲となってしまったなんて凄すぎると感じました。

  白水社「ベスト・オブ・ベケット」。


自森人読書 ゴドーを待ちながら
★★★★

著者:  荻原浩
出版社: 集英社

  日本とは思えないほどの奥地にあり、過疎化が進み、若者はおらず、完全に閉塞している牛穴村。青年会の者たちは村おこしのため、倒産寸前の広告代理店・ユニバーサル広告社と手を組みます。彼らは、「ウシアナサウルス(後にウッシーと命名)が竜神沼に現れた」とでっち上げます。すると、マスコミが一斉に集まってくるのですが・・・

  ユーモア小説。第10回小説すばる新人賞を受賞した荻原浩のデビュー作。

  笑える小説と言うのは、たいてい強烈な毒/悪意を含んでいます。だからこそ笑えるという場合も多くあります。しかし、『オロロ畑でつかまえて』はそこまでの毒は含んでいないのに笑えます。不思議なほどほんわかとしています。

  純朴さを保っている村人に対する優しい視点が良いです。彼らをいかにも面白く扱いはするのだけど、決して馬鹿にはしていません。むしろ、やさぐれてしまった都会の人間の方が間違っているのかも知れないと読んでいて感じます(著者は説教臭くならないようにするためかあえて明言はしていないけど)。

  あとは、あるユニバーサル広告社の面々も面白すぎる。飛び抜けて変な人というわけではないのだけど、やっぱり変な人が揃っています。石井社長、杉山、村崎、皆一癖もある人たちばかり。

  ラストは少し都合が良すぎるかも知れないけど、そこもまた良いです。おかしい。井上ひさしが『オロロ畑でつかまえて』を褒めているけれど、井上ひさしを彷彿とさせるものがある気がします。


自森人読書 オロロ畑でつかまえて
★★★★★

著者:  三浦俊彦
出版社: 河出書房

  日向健介と白鷹小夜子は美術大学の学生。二人とも将来の日本画壇を背負って立つと期待されている優れた人たちでした。彼らは卒業制作指導教官であり、画壇の重鎮でもある鏑木聡信教授に誘われ、「前衛工房」なる画廊へ出掛けます。そこではあやしげで危険なコンセプチュアルアート展覧会が行われていました。日向健介は激発し、白鷹小夜子は笑い出すのですが、展示されているものはじょじょに過激になっていき・・・

  あまりにも面白すぎる、と感じた本。

  案内の人とともに、教授と学生の3人が「これは芸術である」「これは芸術ではない」と殴り書きしてある紙が置いてあるだけのところや、剃刀の中をかいくぐらないと見れない絵があるところや、動物が磔にされているところを巡っていくだけなのですが、難解なことはなくて物凄く笑えます。立派な論理というか、屁理屈みたいなものが頻出。

  「正しい」芸術観を持つ普通の人間がコンセプチュアルアートによって崩壊させられていく物語として読むことができます。とにかく笑えます。そして、ゾッとします。一体全体、芸術とは何なんだろうかと考えさせられます。本当は物凄くアブナイものなのだろうか。

  今はもうない過激な芸術展覧会、読売アンデパンダン展を基にしているようです(赤瀬川原平らが出展していたやつ)。どれだけ危険なものだったのだろうか、想像もつきません・・・

  「小説」という形式自体に対する指摘が挟まれているところや、文字の羅列自体をいじくって圧迫感を与えている部分は、ちょっと筒井康隆っぽいかも。三浦俊彦の企みに満ちた小説は本当に楽しめます。


自森人読書 これは餡パンではない
★★★

著者:  堀江敏幸
出版社: 講談社

  『熊の敷石』
  「私」は仕事のため数年ぶりにフランスを訪ね、旧友ヤンと再会します。そして彼が停泊しているのがアヴランシュだと知り、驚きます。私の仕事は『フランス語辞典』を書いたマクシミリアン=ポール=エミール・リトレの伝記の紹介文と部分訳を作ることであり、アヴランシュはリトレの出身地だったからです。私はヤンと「なんとなく」過ごすうちに、ユダヤ人の苦難の歴史とそれの受け止め方の違いを知り、さらには光を知らない少年とその母カトリーヌに出会います。芥川賞受賞作。

  『砂売りが通る』
  私は亡き友人の妹とその娘とともに海岸を歩きます。そうして様々なことを思うのですが・・・

  『城址にて』
  届けられた写真を見ながら、「驚くべき」事件に遭遇したことを思い出します。全体的にユーモアが感じられます。

  どれもエッセイのような小説。『雪沼とその周辺』よりはまだサクッとしていて、洗練されていない部分もあるような気がします。もしかしたら、島国である日本ではなく、大陸にあるフランスが舞台だからなのかも知れない。

  なぜか川端康成を連想します。仄かに暗がりの香りが漂うところ、不意にぬっと不気味なものが現れるところが似通っているような感じがするのです。川端康成の方がもっと変態的かなぁ。

  川上弘美の解説がまた良いです。解説自体が、まるで1つの作品のようです。


自森人読書 熊の敷石
★★★

著者:  日野啓三
出版社: 新潮社

  『あの夕陽』は日野啓三の短編集。『あの夕陽』『野の果て』『無人地帯』『対岸』『遠い陸橋』収録。

  『あの夕陽』
  ソウルから帰ってきた主人公の新聞記者は、ミス李なる朝鮮人のことを思っています。そして、自分に言いなりの妻と別れようとするのですが別れる気力すらわきあがってきません。そうして彼は、何も決断できぬまま銭湯へゆきます。芥川賞受賞作。

  『野の果て』
  主人公は、海鳴りの聞こえるあばら家のよう場所で生きているおばさんのもとを訪ねます。彼らは朝鮮から引き上げてきたという共通点があるため、何らかのつながりを感じているのですが・・・

  『無人地帯』
  韓国と北朝鮮の狭間にある非武装地帯に興味を持った記者は、そこへ赴き、教員の女性と出会い、そして輪郭のはっきりとしない彼女にひかれます。偶然トラックに置いていかれてしまい、学校で女性と夜をともに過ごすのですが・・・

  『対岸』
  街に疲れ、何もないきれいな対岸に渡りたいと願う男の物語。彼は仕事の中で時間を見つけ・・・

  『遠い陸橋』
  今度は息子が登場。『あの夕陽』の続編らしき作品。

  味わい深い作品ばかりです。エッセイのようでもあります。半分くらいは、著者自身の姿をそのまま写し取っているのではないか。淡白なのですが、主人公の虚無というか、気だるさが強く感じられます。男たちは皆、妙に自閉的。

  その背景にあるのは、かつての第二次世界大戦や、朝鮮戦争なのだけど、それらは妙にぼんやりとしています。全体像がはっきりしないのです。けど戦争というのは、そういうものなのかも知れない。かっちりと形を掴むというのは不可能な気がします。


自森人読書 あの夕陽
★★★

著者:  長嶋有
出版社: 文藝春秋

  短編集。『サイドカーに犬』『猛スピードで母は』収録。

  『サイドカーに犬』
  薫は弟と語らううちに、母が家出し、父の友人や愛人が出入りした小学4年生の夏休みのことを思い出します。そして自分にも何かが訪れるのではないか、と言う予感を抱くのですが。第92回文學界新人賞受賞作。映画化されているそうです。

  『猛スピードで母は』
  小学生5年生の慎は母親とともに北海道での日々を過ごしていました。そんなある日、母が再婚という言葉を口にします。芥川賞受賞作。

  けっこうソフトです。

  長嶋有は最近の作家らしく、非常に軽い作風なのだなぁと感じました。しかし一場面一場面に目を向けるとけっこう深いものがあります。子ども時代のことを懐古するときの寂しいような感情が伝わってきます。ムーギチョコとムギーチョコが印象に残りました。

  車が物語を読み解くキーだというようなことを斎藤美奈子が書いていたけど、どういうことだろう。車で運ばれる(飼われている気がする)ということに快感を感じるのはなぜなのだろう。う~ん、何もしていない状況に溺れていることが楽しいということだろうか。いまいち分からない。単なる移動手段というわけではない気はするけど。


自森人読書 猛スピードで母は
★★★

著者:  いとうせいこう
出版社: 新潮社

  家庭用ゲーム機「ディス・コン」が普及し、子どもたちはそれにはまりました。その中でもとくに流行ったのが『ライフキング』というゲーム。子ども達の中には、クリアの仕方や裏技などを教え合う巨大なネットワークすらつくられつつありました。そんなゲーマーの一人に、大沢まことという小学4年生の男の子がいました。彼の学校の校長が『ライフキング』を否定する発言を行った直後に急死。それがノーライフキングの呪いだという噂が広まり・・・

  流行するゲームとそれによって生まれた子どもたちのネットワークを敵視する大人たちが子どもたちを追い詰めていく物語。物語内に登場するゲームの雰囲気がちょっと古い気がするのだけど、今の世の中にも充分通用する物語だと思います(いまだに「ゲーム脳」などという言葉を科学的裏づけもなく多用し、ゲーム駆逐を目指している学者や大人が世の中に満ち溢れているのだから)。

  いとうせいこうは辛辣です。子ども達の自閉した部分をもきちりと描写します。ハッピーエンドはやってきません。

  ただし、少年たちは閉じてしまったのかどうか、という部分はもしかしたら議論の余地があるのかも知れません。僕は、大人との対決から逃げることは自閉にあたると思っています。しかし、そういった考え方自体が間違いなのかも知れない。

  映画化されているそうです。


自森人読書 ノーライフキング
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